短編アニメーション映画『岸辺のふたり(FATHER AND DAUGHTER)』のテーマについて考察(解釈)していきたいと思います。「無声映画だし、何について描いているのかわからない」という人向けに、
あくまで考察ですが、
- 作品のテーマ
- なぜそう解釈できるのか論理的根拠
- メタファー(隠喩)とその意味
をまとめています。
作品のテーマは?
結論から言うと、
この短編アニメーション映画『岸辺のふたり(FATHER AND DAUGHTER)』はわずか8分の物語の中に、
登場人物2人の【生きるという大きな流れ】を描きました。時間という流れは前にしか進みません。後戻りできない人生を、どう生きるのか。この映画は、娘と父という関係を描きながら、人生を描いています。
【根拠】なぜそう解釈できるのか
根拠1:自転車という乗り物
『岸辺のふたり(FATHER AND DAUGHTER)』のテーマが【生きるという大きな流れ】を描いていると考察できる理由に「自転車が人生の象徴として何度も描かれている」からという根拠があります。『岸辺のふたり』では、自転車をこぐシーンが何度も何度も描かれます。
そもそも自転車は、
自分の力で車輪を回す
自分の力で進む
前にしか進まない
という乗り物です。
他の乗り物(例えば車)は、自分の力では進みません。車はバック(後退)することができます。この『岸辺のふたり』のテーマ【人生】に沿っている乗り物は、車ではなく自転車だと思いませんか?また、不自然なほど、車輪がアップで描かれています。自転車の車輪は、丸い形をし、ぐるぐる回り続けるものです。
時間の流れのように、自分の力で漕ぎ続ける限りはぐるぐる回り続けます。作品のテーマ【人生の流れ】も同じように、生きている限り自分の力でこぎ続けないといけません。こぐのをやめたら、すぐ隣は死後の世界です。自分の力で生きることを描くために、自転車が効果的に用いられていると思います。
根拠2:岸辺という場所
この『岸辺のふたり(FATHER AND DAUGHTER)』が【生きること】を描いていると考察できる理由として、
「岸辺という場所が物語の舞台」であることがあげられます。物語のはじめ、娘の父親が小舟に乗って大海原へ乗り出していきましたが、これは死を象徴しています。
舟や小舟が意味するのは、死者を来世に導くことを表す。
ビーダーマン『世界のシンボル辞典』(P371)
岸辺が描かれてる理由は、人生のすぐ隣に死があることを暗示させるためではないでしょうか?
作品に込められたメッセージ
ラストに海水がなくなる深い理由
物語のラスト、主人公の娘が父との再会を果たします。しかしその場所は、海ではなく「陸」になっていました。この陸地の表現には、「この映画がつくられた国と時間経過のアイロニー(皮肉)」が関係しています。
『岸辺のふたり(FATHER AND DAUGHTER)』をつくった制作会社はオランダです。オランダの正式名所は「ネーデルランド王国」です。ネーデルランド(Nederland)は、”低い土地”を意味しています。
実際オランダは、
国土の多くがポルダーと言われる干拓地
国土の4分の1は海面下
という特徴を持った国です。この映画『岸辺のふたり』では、時間経過とともに国の歴史を語っていると思います。かつて海だった場所を、陸にしてきたオランダへのメッセージ(皮肉)と感じないでしょうか?