1962年に公開された映画『アラバマ物語 (TO KILL A MACKINGBIRD) 』を解説します。
この記事では、
時代設定
公開年
物語の語り手
に着目して、映画の歴史的需要性を読み解いていきます。
映画解説
物語の語り手がヒント?!
この映画はある女性のナレーションから物語が始まります。
ある女性とは過去を想起しているスカウト(シーン・ルイス)です!
この語りによって私たち観客は、2つの時系列を意識せざるを得なくなります。
- スカウトが少女(6歳)だった頃
- 語り手のスカウトの時代(大人)
映画の時間軸(6歳のスカウト)
スカウトが6歳だった時代(物語の舞台)は、1932年のアラバマ州です。
この時代のアメリカ南部は1929年に始まった大恐慌の影響を強く受けて、農場の倒産が続くなどと不景気状態でした。
それだけではなく、アメリカ南部の1930年代は人種差別が根強く残っていて、社会的にも経済的にも不安定な時期でありました。
この時代にあった実際の事件の具体例として、1931年にスコッツボロ事件があげられます。
これは、無賃電車の黒人男性9人がレイプの濡れ衣を着せられて死刑判決を受けるというものです。
この事件において、レイプ証言をした白人女性2人は調査により嘘の証言をしていたことがわかっています。
しかしながら、この裁判では陪審員たちは有罪判決を繰り返していました。
なぜなら陪審員たちはみんな白人だからです。
この歴史的事実からも明らかになるように当時のアメリカ南部は非常に人種差別が横行し、いかに白人優越体制だったかわかりますね。
語り手の時代
1932年のアメリカ南部のアラバマ州を舞台にした『アラバマ物語(TO KILL A MOCKINGBIRD)』は1962年にアメリカで公開されました。
1962年は、公民権運動真っ只中であり、ケネディ大統領が公民権法を議会に提案することを発表し、アメリカ白人による抵抗が激しく行われた年代でもあります。
『この時代に(1962年)映画を公開する理由とはなんでしょうか?!』
物語の舞台は、人種差別が横行していた時代。
その時代の過去を想起する理由は…?
もし、白人至上主義者たちや政府によって公民権運動が鎮圧された時のことを考えてみてください。
白人と黒人が平等に近づく日が遠のいたと思いませんか?
また、人種差別が横行していた時代に巻き戻っていたと思いませんか?
スカウトが6歳だった時代に戻っていると思ます。
陪審員による裁判の不正。人種エチケット。選挙権剥奪…。
語り手のスカウトは映画の最後にこうつぶやいています。
最近この夏のことを思い出す。
アラバマ物語(1962年、ロバート・マリガン)
この夏はもちろん物語の舞台となった1932年です。
今、その時のことを考え直さなければ、同じ過ちを繰り返すだけ。
いかに歴史的に重要な作品であることが伝わってきますね。
アメリカの人種概念は社会的・政治的概念のため何度も揺れ動いています。
人種隔離立法を抗議する運動がムーブメントになる年もあれば、「南部宣言」のように人種隔離を支持するムーブメントも起きています。
この映画が公開された1962年はこのムーブメントの波が大きなときだったと私は考えています。
そんな時期にスカウトの視点でこの映画を公開することはアメリカの歴史的にも重要な役割を持っていると思いませんか?!